ビジネスでは元請から下請へと当たり前のように仕事が委託されますが、請負金額は元請側が自由に決めることができます。しかし、元請側が優位に立つことも少なくなく、この優位的地位の濫用を規制するために下請法が制定されています。

ただし、建設業においてはこの下請法は適用されず、建設業法で個別に下請の保護規定が設けられています。

建設業法でも下請法と同様に、安過ぎる請負代金での契約を禁止しています。

これは、請負契約全般に適用され、発注者と受注者、1次下請と2次下請との間にも適用されます。

つまり、どの事業者も状況によっては、請負金額を都合よく決める、決められる立場に両方なり得るということになります。

それだけに下請保護規定の理解は、元請下請を問わず必須です。

この記事では、建設業法で禁止されている「不当に低い請負代金の禁止」について分かりやすく解説していますので、ぜひ参考にしてください。

不当に低い請負代金の禁止

元請下請間の取引依存が高い = 例えば売上の9割を受注しているなど、今後元請から仕事が回ってこなければ経営が破たんしてしまうような状況ではある程度不利益な請負金額でも受け入れざるを入れませんよね。

また、元請側からしても実際は価格競争がすべてを決めがちな建設業界では、いくらが不当に低い金額であるかは容易に判断できないこともあります。

 

そこで、次の建設業法第19条の3ではそういった境界線を明確にし、請負代金について下請の保護規定を設けています。

不当に低い請負代金の禁止 

「注文者は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結してはならない。」

条文には、「自己の取引上の地位を不当に利用」と「通常必要と認められる原価に満たない金額」という文言が出てきました。

この2つについてさらに分かりやすく噛み砕いてみましょう。

 

自己の取引上の地位を不当に利用するとは

自己の取引上の地位を不当に利用するとは、元請下請間の取引依存が高い場合に例えば元請の希望する請負代金で応じなければ今後は仕事を減らす・回さないといった不利益な対応を迫り、十分に協議せずに、下請工事の施工で通常必要と認められる原価を下回る額で取引を強要することをいいます。

 

通常必要と認められる原価に満たない金額

通常必要と認められる「原価」とは、請け負った工事を施工するのに必要となる費用のことです。

これは工事費や材料費などの直接的な工事費用だけでなく、社員の給料や現場事務所の営繕着など、その工事で必要となる全体的な費用のことをいいます。

この費用は次の4つの経費を合計して求められます。

  1. 直接工事費・・・・工事費や材料費など、その工事を施工するのに直接必要となる経費
  1. 共通仮設費・・・・現場事務所の運営費や安全対策費など、工事全体にまたがる経費
  2. 現場管理費・・・・現場社員の給料など、工事を監理するために必要な経費
  1. 一般管理費・・・・会社の営繕・管理部門の人件費や経費など

工事原価(直接工事費 + 共通仮設費 + 現場管理費)+ 一般管理費

さらに「原価」は、施工地域で同種類の工事の標準的な請負代金も参考にし判断することになります。

 

不当に低い請負代金に該当する事例

国土交通省から出されているガイドラインでは、「不当に低い請負代金」で建設業法違反となる行為として次の事例をあげています。

①元請負人が、自らの予算額のみを基準として、下請負人との協議を行うことなく、下請負人による見積額を大幅に下回る額で下請契約を締結した場合

②元請負人が、契約を締結しない場合には今後の取引において不利な取扱いをする可能性がある旨を示唆して、下請負人との従来の取引価格を大幅に下回る額で、下請契約を締結した場合

③元請負人が、下請代金の増額に応じることなく、下請負人に対し追加工事を施工させた場合

④元請負人が、契約後に、取り決めた代金を一方的に減額した場合

請負代金そのものが低いということは当然ですが、その請負代金の決め方 = プロセスに問題があることが分かると思います。

また、そのプロセスをひも解けば、他の観点からも建設業法違反となっていることが分かります。

 

例えば①では、下請業者と十分に協議を行なわずに、都合よく安い代金で契約を強いると指値発注となり、建設業法違反となる可能性があります。

※指値発注についてはこちらの指値発注が建設業法違反になってしまう3つの観点で詳しく解説しています。

また③では変更契約を締結していません。

追加工事や工期の変更が生じた場合は、必ず契約変更手続きを行う必要があります。合理的な理由がないのに下請契約の変更に応じなければ建設業法違反となります。

 

契約変更にも適用される

事情が変わって当初の契約内容を変更してしまうことも少なくありませんが、その際は必ず新たに変更契約を結ぶ必要があります。

「不当に低い請負代金の禁止」の保護規定は最初の請負契約だけに適用されるものではなく、この変更契約時にも適用されます。

契約内容から原価が上昇するなど増額が必要なのにしなかったり、極端に低い請負代金にすることがないように変更内容に見合ったものにしなければなりません。

 

最後に

いかがでしたか?

この記事では、下請業者に対して原価割れ受注を強制すると建設業法違反になるということを解説しました。

建設業法では、建設業の実態に合わせた下請保護規定が抜け目なく揃っていますし、ガイドラインも配布されています。

 

しかし、私の実感として監督官庁(国土交通省・都道府県)はまだまだ下請保護の行政指導について積極的ではないと思っています。

ある意味それは建設業法の下請保護規定は机上のもの、現実問題と噛み合っていないということが言えます。

元請業者から不利な条件を突きつけられて深刻な状況にあれば、場合によっては裁判を起こすなど、こちらから何かしらのアクションが必要になってきます。

いきなり裁判を起こすのは気が引けるという人は、下記の下請問題を取り扱う相談センター等を利用してみてはいかがでしょうか。

建設業取引適正化センター

下請かけこみ寺

駆け込みホットライン