指値発注とは、元請が下請けに対して自らの希望額を指定して工事を発注することをいいます。
この指値発注をすれば、それだけで建設法上の問題となるわけではありません。
しかし、下請代金の額を決定する際、元請業者があまりにも都合よく指値をしてしまうと建設業法違反となる可能性があります。
この記事では、下請業者に指値による発注をする際、建設業法違反となるケースについて解説していますので、ぜひ参考にしてください。
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指値発注とは?
指値発注が違法となり問題となるのは、元請業者が強制的に指値した額で契約を締結させることがあるからです。
例えば、下請業者と十分に協議をしなかったり、協議に応じずにさらに今後の取引の不利益を示唆するなどして一方的に決めた額で契約を締結させることです。
例えば、次のようなことをしてしまっていませんか?
- 下請の出す見積書を一切見ない
- 元請の指示で強制的に見積書を書かせる
- 6千万円かかってできる仕事を3千万円で受けさせる(原価割れ)
- 請負金額を決めないで、工事が終わってから指値で都合の良い金額を提示する
これらのことはもちろん、これらに応じなければ今後は仕事を発注しないと示唆することもいけません。
指値発注の違反事例
国土交通省の建設業法令遵守ガイドラインでは、指値発注で建設業法違反となる行為事例をまとめています。
以下に記載しますので、参考にしてください。
建設業法違反となるおそれがある行為事例
・元請負人が自らの予算額のみを基準として、下請負人との協議を行うことなく、一方的に下請代金の額を決定し、その額で下請契約を締結した場合
・元請負人が合理的根拠がないのにもかかわらず、下請負人による見積額を著しく下回る額で下請代金の額を一方的に決定し、その額で下請契約を締結した場合
・元請負人が下請負人に対して、複数の下請負人から提出された見積金額のうち最も低い額を一方的に下請代金の額として決定し、その額で下請契約を締結した場合
※出典・引用:国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン」より抜粋
建設業法違反となる行為事例
・元請下請間で請負代金の額に関する合意が得られていない段階で、下請負人に工事を着手させ、工事の施工途中又は工事終了後に元請負人が下請負人との協議に応じることなく下請代金の額を一方的に決定し、その額で下請契約を締結した場合
・元請負人が、下請負人が見積りを行うための期間を設けることなく、自らの予算額を下請負人に提示し、下請契約締結の判断をその場で行わせ、その額で下請契約を締結した場合
※出典:国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン」より抜粋
指値で建設業法違反になる3つの観点
前述の行為事例を見れば、次の3つの観点から建設業法違反になっていることが分かります。
不当に低い請負代金の禁止
下請代金がその工事を施工するために「通常必要と認められる原価」に満たない金額となる場合は建設業法で禁止されている元請業者による地位の不当利用に当たります。
例えば、5000万円以上かかって何とかできる工事をその半分の2500万円で受けないと今後は仕事を回さないといったことを示唆するようなことです。
また、通常の工期より短い工期を設定し無理させておきながら、請負代金は通常の工期と同じといったこともこれに当てはまります。
見積り条件の提示と見積期間の設定
建設業法20条3項では、下請業者が見積をする際に、元請業者から下請契約の具体的な内容を提示し、かつ、その下請契約を受けるかどうか検討するための適正な見積期間を定めることを規定しています。
つまり、元請業者が指値した額で下請契約を受けるかどうか検討する期間を十分に与えない場合は、建設業法20条3項の「見積り条件の提示と見積期間の設定」に違反してしまうということです。
※見積り条件の提示と見積期間の設定についてはこちらの元請と下請けの見積り|下請業者を保護する2つの義務を解説で詳しく解説しています。
書面による契約締結
建設業法では、着工前に定められた事項を書面に記載して契約を交わすことが規定されています。
請負金額が決定していない状態で、下請業者が工事を受注して始めるといった場合、この書面による契約締結に違反していることになります。
まとめ…やはり法律は守らなければならない
この記事では、都合よく指値発注をすれば様々な観点から建設業法に違反してしまう可能性があるということを解説しました。
もしかすると、あなたはこう思っているのかもしれません。
「今さらそんな正論を言われてもな。暗黙の了解で納得してくれる下請もいるし、請負代金にしても安く請負ってくれる業者がいればそれに越したことはない。そんな綺麗ごとは言ってられない」と。
確かに複数の業者がいる中で低額の見積金額を提出されれば、それを基準にしてしまいがちですし、納得して請け負ってくれるなら安ければそれに越したことがないというのが人情でしょう。
もし、私も同じ立場なら同じように考えてしまうかもしれません。
しかし、下請業者は会社の規模や状況によって様々なタイプがいるということはあなたもご存知だと思います。
比較的大きな会社なら多少のことは目をつぶってくれるということはもあるかもしれませんが、規模の小さい会社になると話は変わってきます。
例えば、売上の9割をあなたの会社から受注しているとなれば、どうでしょうか?状況によっては倒産寸前かもしれません。
また、指値発注をしたからといってすぐに違法となるわけではありません。そのため、「そう簡単に摘発なんかされない。それに都合よく指値発注をしている業者は探せばいくらでもいる」とあなたはバカバカしくなっているかもしれません。
しかし、都合よく指値発注をすれば、下請間での評判は決してよくありませんし、いずれ下請業者が離れていってしまうのは目に見えています。
最後の最後で結局、正論を言ってしまいますが、やはり法律を守って事業をしてほしいと私は思います。
あなたにも下積み時代はあったのだし、相当の修羅場をくぐり抜けて来たに違いありません。
下請業者が抱える理不尽さは、実はあなたが一番よく理解できるのかもしれません。
これは私の意見ですが、末永く事業を続けることができる要因の1つはやはり法律を守って誠実に仕事をしているからだと思います。
末永く事業を続けて生き残っていくためにも、この記事でお話した「不当に低い請負代金の禁止」、「見積期間の設定」、「書面による契約締結」の3つは守ってください。