工事の工期は、できる限り変更が生じないように、元請業者と下請業者がしっかりと協議し設定することが必要ですが、天候や現場の状況によってはやむを得ず工期を変更しなければならいことも少なくありません。

その際、元請業者は建設業法の下請保護規定に違反しないように注意をする必要があります。

この記事では、工期変更時の3つの注意点を下請保護の観点から解説しています。また、ガイドラインも交えて違反となる行為事例も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。

 

工期変更時の3つの注意点とは?

前述のとおり、万全を期して工期を設定していても建設業という特性上、どうしても変更せざるを得ない場面が出てきます。

その際、元請業者は建設業法違反とならないように次の3つに留意する必要があります。

  • 変更契約を締結する
  • 費用の増加分を下請業者に一方的に負担させてはいけない
  • 下請業者に責任がなければ費用は元請業者が負担する

1つずつ確認していきましょう。

 

変更契約を締結する

契約内容に変更が生じた場合、その都度、新たに契約を結び直す必要があります。これは工期の変更が生じた場合も同様です。

これを変更契約といい、最初の契約と同様、著名または記名押印をした書面(変更の内容を記載した)を相互に交わさなければなりません。(建設業法第19条第2項)

下請業者からの協議に応じずに、書面による変更契約を行わなかった場合は、建設業法違反となるので、注意が必要です。

また、変更契約の際は、後で紛争に発展しないように、工期や費用などについて元請下請間で十分に協議するようにしてください。

 

費用の増加分を下請業者に一方的に負担させてはいけない

元請として取引上優位な立場を利用して、工期変更に起因する費用の増加分を下請業者に一方的に負担させてはいけません。

利益率が極端に低くなれば、建設業法第19条の3「不当に低い請負代金の禁止」に違反することになります。

この「不当に低い請負代金の禁止」規定についてはこちらの建設業法の下請保護規定|不当に低い請負代金の禁止規定について解説で詳しく解説しています。

 

下請業者に責任がなければ費用は元請業者が負担する

工期の変更について下請業者に責任がなければ、増加分の費用は元請業者が負担しなければなりません。

例えば、元請業者の施工管理が十分に行われなかったことが原因で、工期を短縮してしまい、労働者を集中的に配置するなどして、下請工事の費用が増加してしまうような場合は、元請業者が負担する必要があります。

 

工期の変更で建設業法違反となる行為事例

国土交通省から出されているガイドラインでは工期の変更で建設業法違反となる行為事例として次のものをあげています。

元請負人の施工管理が不十分であったなど、※下請負人の責めに帰すべき理由がないにもかかわらず下請工事の工程に遅れが生じ、その結果下請負人の工期を短縮せざるを得なくなった場合において、これに伴って発生した増加費用について下請負人との協議を行うことなくその費用を一方的に下請負人に負担させた場合

元請負人の施工管理が不十分であったなど、※下請負人の責めに帰すべき理由がないにもかかわらず下請工事の工期が不足し、完成期日に間に合わないおそれがあった場合において、元請負人が下請負人との協議を行うことなく、他の下請負人と下請契約を締結し、又は元請負人自ら労働者を手配し、その費用を一方的に下請負人に負担させた場合

元請負人の都合により、下請工事が一時中断され、工期を延長した場合において、その間も元請負人の指示により下請負人が重機等を現場に待機させ、又は技術者等を確保していたにもかかわらず、これらに伴って発生した増加費用を一方的に下請負人に負担させた場合

元請負人の都合により、元請負人が発注者と締結した工期をそのまま下請負人との契約工期にも適用させ、これに伴って発生した増加費用を一方的に下請負人に負担させた場合

 

工期変更の原因は様々ですが、上記の事例では、この記事で解説した2つの観点、つまり、建設業法第19条第2項の「変更契約」と建設業法第19条の3「不当に低い請負代金の禁止」に違反しています。

※責めに帰すべき理由がないとは「何の落ち度もなく責任を負わなければならない理由がない」というような意味です。

工期変更に伴う増加費用を赤伝処理として、根拠を明確にしないまま差し引けば建設業法違反となります。

「増加費用を一方的に負担させる」行為にはこのような赤伝処理も当然含まれます。

※赤伝処理についてはこちらの赤伝処理が建設業法違反となるデッドラインは?で詳しく解説しています。

 

変更後の工期がすぐに確定できない時は?

工事中に工期が変更になれば、それが分かった時点ですぐに変更契約を締結しなければなりません。

しかし、なかには工期を変更する必要があっても、その期間がどれくらいなのかすぐに分からないこともあります。

期間が分からなければ、当然変更契約なんてできませんよね。

その場合は、次の2点について元請下請間で確認さえすれば、工期の期間が決定した時に変更契約を行うことができます。

  • 工期の変更が契約変更の対象となっていることを元請下請間で確認する
  • 契約変更を行う時期を明確にし、それを記載した書面を残す

 

まとめ

いかがでしたか?

建設工事における適正な工期設定のためのガイドラインでは、労働者の休日や資材の調達等の準備期間、施工後の方付け期間、さらには天候なども様々な要素を検討して工期を設定することが必要とされています。

とはいえ、万全を期していても、建設業という性質上、天候を始め様々な影響を受け工期に影響が出ます。

この記事で解説したように工期を変更する際は必ず次の3つに留意してください。

  • 変更契約を締結する
  • 費用の増加分を下請業者に一方的に負担させてはいけない
  • 下請業者に責任がなければ費用は元請業者が負担する

参考になれば幸いです。