これから建築士事務所を立ち上げる場合はもちろん、建設工事の請負の一環として設計業務を行うという場合でも建築士事務所登録は必要となります。
建築士事務所登録は、例えば建設業許可のような許認可に比べると要件や手続きの難易度は決して高くはありません。
ただし、必要書類が何なのか、また、手続きの手順とポイントを理解していなければ、思わぬ手間と時間がかかることになります。
この記事では、建築士事務所登録の要件、さらに手続きの手順やそのポイントについて解説してしました。
ぜひ一読下さい。
Contents
建築士事務所登録とは
報酬を得て設計業務を行う場合は、「建築士事務所登録」が必要となりますが、細かく言えば、建築士法により設計業務も含めて以下の業務を行う場合に建築士事務所登録が必要となります。
- 建築物の設計
- 建築物の工事監理※
- 建築工事契約に関する事務
- 建築工事の指導監督※
- 建築物に関する調査または鑑定
- 建築に関する法令または条例に基づく手続きの代理
※工事監理や指導監督というのは、いわゆる建設業法上の現場監督・施工者というものではなく、あくまで建築士として工事が設計図のとおりに実施されているかどうか、第三者的立場から指導監督することをいいます。
建築士事務所登録の要件
建築士事務所登録を行うには主に以下の要件をクリアする必要があります。
- 事務所が確保されていること
- 管理建築士を常勤で配置していること
- 欠格要件に該当していないこと
- 定款や登記簿謄本に「建築物の設計・工事監理」等の文言が含まれること
- 納税の証明が取れること
この記事では、上記の要件で特に重要となる2の管理建築士について詳しく解説していきます。
管理建築士について
管理建築士とは、建築士事務所を管理する、1級建築士、2級建築士、木造建築士のことで、1級建築士であれば1級建築士事務所として登録をすることができます。
ただし、単に建築士の資格を持っていれば管理建築士になれるというものではなく、次の2点をクリアしている必要があります。
- 専任であること
- 管理建築士講習を受講していること
この2点について詳しく確認していきましょう。
専任性について
管理建築士は専任であることが必要です。
専任とは、その事務所に常勤し、専ら管理建築士の職務を行うことです。非常勤は認められず、週一定の時間、勤務していることをいいます。
そのため、例えば以下のような場合は専任性が認められません。
- 1人で複数の支店の管理建築士を兼ねる
- 他の会社で働いている者
- 派遣社員
管理建築士講習の受講
管理建築士になるには、登録講習機関が主催する「管理建築士講習」というものを受講しなければなりません。
この管理建築士講習は建築士なら誰でも受けれるというものではなく、受験資格として「建築士として3年以上の設計等の業務に従事している」ことが必要です。
これはあくまで建築士としての実務経験のことなので、建築士免許を登録する前の実務経験はカウントされません。
建築士としての実務経験は、1級、2級、木造の区別はなく、どれでもカウント、通算することが可能です。
例えば、2級建築士の実務経験しかなくても、その後1級建築士を取得していれば、1級建築士事務所を開設するために管理建築士講習を受講することが可能です。
建築士事務所登録の手続きの概要とその流れについて
建築士事務所登録の申請から完了するまでの手順について見てみましょう。
- 管理建築士講習
- 事前確認
- 書類の作成・収集
- 書類の提出
- 受理・審査
- 登録証の交付
申請をしてから登録証が交付されるまでの期間は、都道府県やその時の状況により異なってきますが、一般的には1週間前後となります。
ただし、管理建築士講習もこれから受講するという場合は、さらに多くの日数がかかるので注意が必要です。
申請で必要となる管理建築士講習の修了証が発行されるのは、受講後1ヶ月程度かかるからです。
登録を急ぐという人は、申請する日を見据えて早めに受講することが必要です。
申請窓口と事前確認
申請窓口は、各都道府県の建築士事務所協会となります。
申請前に疑問点がある場合は必ず窓口で事前確認をしましょう。
少しでも疑問に思うところは曖昧にせずに、疑問点をすべて解決した状態で申請することをおすすめします。
ここの手間を省くと、申請をしても書類不備等で申請が受理されずに再度窓口に足を運ぶということになりかねないからです。
登録は都道府県ごとに必要
法人の支店などで複数の設計事務所を都道府県にまたがって設ける場合は、それぞれの都道府県から登録を受けなければいけません。
例えば、兵庫県(本店)と大阪府(支店)で設計等の業務を行うには兵庫県と大阪府から登録を受ける必要があります。
申請に必要書類は?
申請に必要な書類は、各都道府県や各自状況により多少異なってくることがありますが、一般的には以下のものが必要です。
- 建築士事務所登録申請書
- 所属建築士名簿
- 役員名簿(法人の場合)
- 申請者の略歴書
- 管理建築士の略歴書
- 管理建築士の住民票
- 管理建築士の専任証明書類
- 管理建築士の前職場の退職証明(退職後6ヶ月以内の場合)
- 建築士免許証の写し(原本の提示が必要)
- 管理建築士講習修了証の写し
- 誓約書
- 法人事業税の納税証明書
- 定款の写し(法人の場合)
- 履歴事項全部証明書(法人の場合)
- 賃貸借契約書の写し(事務所所在地が登記上の本店と異なる場合)
例えば兵庫県の場合、管理建築士の専任性の確認は窓口での口頭確認のみで、証明書類の提出までは求められません。
※必要書類は各都道府県の建築士事務所協会によって異なるので、必ずホームページ等で確認をしてください。
手数料について
手数料は都道府県によって多少前後しますが、例えば兵庫県の場合だと以下の通りになります。
1級建築士事務所
- 17,000円
2級・木造建築士事務所
- 12,000円
許可後について
更新が必要
建築士事務所登録の有効期間は5年間となっています。更新の手続きは有効期間が満了する日の30日前までに行わなければなりません。
兵庫県の場合は、有効期間満了の3ヶ月前から更新手続きが可能です。
※建築士事務所に所属する建築士は3年に1回、登録講習機関が行う定期講習の受講が必要です。
登録後の義務
登録を完了すると煩わしい手続きから解放されますが、建築士法により登録後はいくつかの義務が課されるので、登録をすれば何もしなくてもいいという訳ではありません。
具体的には
- 設計等の業務に関する報告書(毎事業年度経過後3ヶ月以内)
- 変更届(登録事項に変更があった場合に14日以内)
- 標識の掲示
- 重要事項の説明等
- 書面の交付
- 帳簿の備付け
- 図書の保存
- 書類の閲覧
などの義務が課されます。
まとめ
いかがでしたか?
今回は建築士事務所登録の要件と手続きの大まかな流れについて解説しました。
申請をしてから登録証が交付されるまでの期間は、通常は1週間前後と審査期間はそんなに長くはないですが、管理建築士講習もこれから受講するという場合はさらに1ヶ月程度の期間が上乗せされるので注意が必要です。
ただし、過去に他の建築士で管理建築士講習を受講している場合は、改めて受講する必要はありません。例えば、過去に2級や木造建築士で管理建築士講習を受講していれば、1級建築士として改めて受講する必要はありません。
また、登録と同時に会社も設立するという場合は、その期間も見込んでおく必要があります。
効率的に手続きは進んだとしても会社が設立できるまでの期間は通常、2~3週間はかかります。
最後に余談ですが、今後の事業展開によっては建設業許可の取得を検討されている方もおられるのではないでしょうか。
建築士が在籍していることは、建設業許可の取得にあたって非常に有利に働きます。
※詳しくはこちらの建設業許可と建築士事務所登録の要件・疑問点を分かりやすく解説で解説しています。