2020年10月に1994年以来、およそ25年、四半世紀ぶりに建設業法が改正されました。
今回の改正は、実務上、また、事業を拡大する上で大きく影響を与える内容となりました。
また今回の改正は、建設業許可にも変更がある内容となっており、建設業許可をこれから取得する場合、またすでに許可を取得している場合にも必ず知っておかなければならない内容となっています。
この記事では、今回の改正内容の変更点を建設業許可に絞って詳しく解説しています。ぜひ一読ください。
Contents
【2020年10月】建設業法改正による建設業許可への影響は?
【2020年10月】の建設業法改正により、建設業許可に関して次の6つの改正がありました。
- 建設業許可の要件に「社会保険の加入義務」を追加(規制)
- 建設業許可の「経営業務の管理責任者」の要件を合理化(緩和)
- 監理技術者の専任性の緩和(緩和)
- 主任技術者の配置義務の合理化(緩和)
- 事業譲渡等や相続の際、建設業許可を円滑に承継できる仕組みを構築(緩和)
- 建設業許可標識の提示義務の緩和(緩和)
これらをカテゴリー化すると以下のようになります。
- 許可要件について
- 技術者の配置について
- 許可の承継について
- 許可標識の提示義務について
1つずつ見ていきましょう。
許可要件について
建設業許可の要件については次の2つの変更点があります。
- 社会保険加入義務の追加
- 経営業務の管理責任者の要件を合理化
1つずつ確認していきましょう。
社会保険加入義務の追加
社会保険への加入が許可要件となりました。2020年10月1日以降、社会保険に加入していなければ建設業許可は取得できません。
また、なかには「すでに許可を取得しているからうちには関係ない!」と思っている方もおられるかもしれませんが、5年に一度の更新の際に加入していなければ、許可は更新されませんので注意が必要です。
社会保険加入の適用事業所は、「法人」と「従業員が5名以上いる個人事業主」です。
従業員が5名以下の個人事業主の場合は、そもそも適用事業所ではないので、社会保険の加入義務はありません。
経営業務の管理責任者の要件を合理化
今回の改正点目玉の1つとして、「経営業務の管理責任者(以下、経管)の要件」が緩和されることになりました。
なかには、「経管の要件が廃止される」または、「許可が飛躍的に取りやすくなる」といった話を一度は聞いたことがあるかもしれませんが、実際はどうでしょうか?
結論としては、経管の要件そのものが廃止される訳ではありません。
これまで通り「建設業に関して5年の役員等の経験」があれば要件は一発でクリアできます。
今回の改正では、これまでの要件はそのまま残しつつ、次の2点の緩和策が講じられました。
- 他業種の役員経験でも一律5年でクリア
- 事業者全体で経営の管理体制が整っているかどうかで判断する
1つずつ見ていきましょう。
他業種の役員経験でも一律5年でクリア
今回の改正で他業種の役員経験でも一律5年で要件をクリアできることになりました。
例えば、電気工事で許可を取る場合、5年の解体工事の役員経験でもクリアできるということです。
この場合、今までなら解体工事の役員経験が6年必要でした。(同じ業種は5年、違う業種なら6年必要)
事業者全体で経営の管理体制が整っているかどうかで判断する
※現時点での改正内容です。状況によっては変更となる可能性があります。ご了承ください。
「事業者全体で経営の管理体制が整っている」とは一体どういう意味でしょうか?
簡単に言えば、要件を1人だけでクリアするのではなく、「会社全体で」クリアしましょうというものです。
つまり、経管となる者の要件の他に、次の2点をクリアしていることが前提です。
- 許可を受ける会社が5年以上の建設業を営んでいること
- 5年以上の財務管理、または、労務管理、または、運営管理の経験を有する者
2については、経管を補佐する、いわゆる、秘書的な存在となる者です。
どのような経験が必要なのかあまりイメージできないかもしれませんが、例えば、個人事業主の右腕として長年サポートしてきた親族などがいい例です。
そして、経管となる者の要件ですが、「会社全体で」でクリアすることになるので、当然要件は緩和されます。
次の2つのうちどちらかをクリアしなければなりません。
- 建設業に関し、2年以上の役員等としての経験を有し、かつ、3年以上の役員等または役員等に次ぐ地位の経験がある者
- 建設業に関し、2年以上の役員等としての経験を有し、かつ、3年以上の役員等(業種問わず)の経験がある者
どの業界の役員経験でもいいので、他業界から建設業に参入する場合にはうってつけの要件と言えることができます。
技術者の配置について
建設業界において人手不足は深刻で、若者離れや離職率の向上など理由は様々ですが、残念ながらすぐに人手不足が解消する見通しはありません。
人手不足は技術者においても同じで、今後ますます技術者の人材不足、そして高齢化が予想されます。
そこで今回の改正で、限られた技術者を効率的に配置できるように技術者配置の要件が緩和されることになりました。
具体的には次の2点の緩和策が講じられました。
- 監理技術者の専任性の緩和
- 主任技術者の配置義務の省略
1つずつ見ていきましょう。
監理技術者の専任性の緩和
これまで監理技術者は、請負金額が3,500万円以上(建築一式工事は7,000万円)の工事については必ず現場に専任で配置する義務がありました。
専任で配置するということは、他の現場を兼務して配置できないということです。
しかし、今回の改正で、一定の条件を満たす補佐する者を専任で配置した場合は2つの現場を兼務できることになりました。
一定の条件とは次の2つのものです。
- 主任技術者の資格要件を満たしている
- 1級技士補の資格を保有している
これら2つの要件を満たす者を専任で現場に配置する必要があります。
技士補とは?
現行の技術検定試験(施工管理技士試験)が今回の改正で2020年4月から1級、2級ともに「第1次検定」と「第2次検定」の2つに分離することになりました。
例えば、1級の「第1次検定」に合格すれば、1級技士補、「第2次検定」に合格すれば1級技士の資格を得ることができます。
主任技術者の配置義務の省略
主任技術者は、1次下請はもちろん、2次下請、3次下請と再下請先にも各自配置しなければなりません。
しかし、今回の改正で鉄筋工事と型枠工事に限っては一定の要件を満たせば、再下請先の主任技術者の配置を省略できるようになりました。
つまり、主任技術者を1名だけ配置すればいいということです。
要件は以下のとおりです。
- 鉄筋工事又は型枠工事に限る
- 下請代金の総額が3,500万円未満
- あらかじめ1次下請が元請(注文者)の書面による承諾を得ること
- 1次下請と2次下請負が書面による合意をすること
- 配置される主任技術者に、1年以上の指導監督的実務経験があり、かつ当該工事現場に専任で配置
- 再下請の禁止
許可の承継について
建設業許可は、事業譲渡・合併・分割(以下、事情譲渡等)や相続の際に引き継ぐことはできませんでした。
つまり、事業譲渡等や相続の際は、建設業許可が失効し、改めて許可を取り直す必要がありました。
建設業許可申請は、知事許可の場合は1~2か月、大臣許可の場合は約4ヶ月の審査期間があります。
そのため、その審査期間中は無許可となり、当然、500万円以上の工事(一式工事は1500万円)は受注できません。
しかし、今回の改正で事前の認可手続きが設けられました。これによって、建設業許可が失効せず、無許可状態 = 空白期間を作ることなく、建設業許可の承継が可能となりました。
「事業譲渡等」、「相続」それぞれで手続きのタイミングが異なってきますので、各自詳しく見ていきましょう。
事業譲渡等の場合
事業譲渡等の場合は、実際に事業譲渡・合併・分割が行われる前に、事前の認可手続きを終えている必要があります。
そして、この認可手続きによって、改めて承継先に許可要件がクリアできているかどうか審査されることになります。
審査に通れば、許可を引き継ぐことができます。
相続の場合
相続の場合は、事業主の死亡前に認可手続きをすることはできませんので、事業主の死後30日以内に認可手続きをすることになります。
事業譲渡等と違って、事前に手続きはできないとういうことになります。
「それなら結局、無許可期間が生じるのでは?」と思われるかもしれませんが、相続の場合は手続きを申請した時点で許可を承継したものとして扱われます。
つまり、申請のタイミングは、事後となりますが、行政庁からの許可又は不許可の通知を受けるまでは許可を受けたものとして扱われます。
ただし、審査の結果、要件をクリアできず不許可となれば、許可は承継できません。
許可標識の提示義務の緩和について
建設業の許可票は、元請と下請はもちろん、再下請先(2次下請、3次下請…)まで、工事に関わる全ての建設業者が掲示する義務がありました。
しかし、今回の改正で許可票の掲示義務は元請のみに限定されることになりました。
ただし、工事に配置される下請業者を把握できるように、元請は施工体系図を掲示することになります。
そのため、許可票と施工体系図の記載内容の変更が検討されています。
まとめ
いかがでしたか?
建設業許可に関して、今回の改正で社会保険が要件化されたことを除けば、他の内容はすべて緩和されています。
今回の改正で特に注目されていたのは、経管の要件の緩和でしたが、その内容から「期待外れだった!」と思った人も少なくなかったのではないでしょうか?
ただし、「他業種の役員経験でも一律5年で要件をクリアできるようになった」という点は非常に評価ができる改正内容と言えます。
また、技術者配置の緩和に関しては、特定建設業許可を持つ、いわゆる、元請業者、そして鉄筋工事と型枠工事を専門とする業者に限定されますが、非常にメリットとなる改正内容となりました。
そして、事業譲渡や相続の際に許可が承継できるようになりましたが、認可申請の際に要件をクリアできていなければ許可は承継できないので注意が必要です。
今回の改正を受けて、建設業許可取得の可能性が高まること、またすでに許可を取得している場合でもビジネスチャンスが広がることは間違いありません。
改正内容をしっかりと理解し、あなたの事業の成功を加速させましょう。