建設工事の請負契約は、「対等」、「公正」、「信義誠実」の原則に基づいて行わなければなりません。

これは従来から、注文者や元請業者が優位な立場に立つ片務性・不公平さが指摘されているからです。

そのため、契約は必ず書面で行い、記載しなければならない内容が建設業法によって定められています。

これは、注文者が国や公共団体であっても、契約相手が下請業者であっても同じです。(発注者と元請業者、元請業者と下請業者のどちらにおいても契約書が必要)

この記事では、契約書に記載する内容を解説するとともに、基本契約書や契約約款を使った契約方法まで幅広く解説するのでぜひ参考にしてください。

 

なぜ請負契約は書面でする必要があるのか?

通常、請負契約は、当事者の合意によって成立する諾成契約と民法で定められています。つまり、契約書など必要とせずに口約束でも有効な契約となります。

しかし、建設業界は他の業界と比べても特殊ですし、請負金額も大きく、それだけに口約束では契約内容が不明確・不正確となり後で大きなもめ事の原因となりかねません。

そのため、建設業法では、書面を交わして契約を結ぶように定められています。

請負契約を書面で交わす際は次の2つを守る必要があります。

  • 建設業法で定められた14項目の内容を必ず記載する
  • 請負契約は必ず工事着工前に書面で行う

 

契約の書面には14項目を必ず記載する

契約書には建設業法で定められる次の14項目を必ず記載してください。

  1. 工事内容
  2. 請負代金の額
  3. 工事着手の時期および工事完成の時期
  4. 請負代金の支払いの時期およびその方法
  5. 設計変更、工事着手の延期、工事の中止等の申出があった場合の各種変更や損害額に関する定め
  6. 天災その他不可抗力による工期の変更、損害の負担およびその額の算定方法に関する定め
  7. 価格の変動や変更による請負代金額、工事内容の変更について
  8. 工事の施工によって第三者が損害を受けた場合の損害金に関するの定め
  9. 注文者が資材や建設機械を貸与した場合についての定め
  10. 注文者が工事の完成を確認するための検査の時期や引き渡しの時期について
  11. 工事完成後の請負代金の支払い時期とその方法について
  12. 工事完成後に欠陥があった場合の保証保険契約やその他措置について
  13. 注文者、請負業者それぞれに違反があった場合における遅延利息、違約金その他損害金に関する定め
  14. 契約に関する紛争の解決方法

建設リサイクル法の対象工事の場合は、上記14項目に加えて次の4つの記載が必要となります。

  1. 分別解体等の方法
  2. 解体工事に要する費用
  3. 再資源化等をするための施設の名称および所在地
  4. 再資源化等に要する費用

 

注文書と請書を利用する方法

注文書と請書を利用して書面による契約とすることができますが、その際は必ず基本契約書もしくは基本契約契款を作成することが必要です。

これはどういうことかというと、上記の14項目のうち、ある一定期間の工事に共通するような契約内容は、あらかじめ基本契約書、契約契款に記載・作成し契約の度に転用します。

そして、その工事ごとで異なる具体的な内容は注文書と請書で補うといった感じでしょうか。

 

具体的に言えば、建設業法で定められている14項目のうち4~14の項目については基本契約書や契約契款にひな形として記載し作成しておき、工事ごとで異なってくる1から3の項目については注文書と請書で補うということになります。

注文書と請書を利用する場合は、必ず以下の要件を満たすようにしてください。

 

基本契約書を使用する場合

1、注文書と請書には、工事内容、請負代金額、工期その他必要な事項を記載する(14項目のうち1~3の内容)

2、基本契約書には、注文書と請書に記載された事項以外の事項(14項目のうち4~14の内容)その他必要な事項を記載する

3、基本契約書は、当事者の著名または記名をし、最後に押印をして相互に交付する

4、注文書と請書には、「注文書と請書に記載されている以外の事項については基本契約書の定めによる」と明記されている

5、注文書には注文者が、請書には請負者がそれぞれ著名と押印をする

 

契約約款を使用する場合

1、注文書と請書のそれぞれに、同じ内容の契約約款を添付または印刷をする

2、注文書と請書には、工事内容、請負代金額、工期その他必要な事項を記載する(14項目のうち1~3の内容)

3、契約約款には、注文書と請書に記載された事項以外の事項(14項目のうち4~14の内容)その他必要な事項を記載する

4、注文書または請書と契約約款が複数枚になる場合は割印が必要

5、注文書と請書には、「注文書と請書に記載されている以外の事項については契約約款の定めによる」と明記されている

6、注文書には注文者が、請書には請負者がそれぞれ著名と押印をする

契約約款とは?

契約約款とは、例えばクレジットカードを作った時や保険を契約する際に、契約に関する内容が事細かに書かれた冊子をもらいますが、そういったものが契約約款です。

また、建設業法では請負契約を締結する際、建設業法で求められる記載事項(例えば、上記14項目)を網羅したものがひな形として( = 標準請負契約約款)国土交通省中央建設業審議会により作成されています。

この標準請負契約約款は4種類あります。以下にリンクを貼っていますので参考にしてください。

公共工事標準請負契約約款

民間建設工事標準請負契約約款(甲)

民間建設工事標準請負契約約款(乙)

建設工事標準下請契約約款

 

追加・変更の契約にも契約書は必要

当初契約以外の変更契約でも必ず契約書を交わす必要があります。

契約の内容を変更する場合や工事を追加する場合でも、その都度、契約書を作成し相互に交付しなければなりません。

これは例えば、少額で簡単な工事を追加する場合でも書面による変更契約書の作成が必要です。

例外は一切認められません。

 

まとめ

いかがでしたか?

この記事では契約は書面によって行い、建設業法で定められた14項目の内容を必ず記載する必要があるということを解説しました。

注意点としては、広く市販されている建設工事請負契約書だからといって、必ずしも建設業法で定められた14項目の内容等が書式の中に記載されているとは限りません。

知らず知らずのうちに建設業法違反とならないように、適切な契約書かどうか書式の内容を必ず確認してください。

また、この記事でも紹介しましたが、国土交通省中央建設業審議会が作成し、使用することを勧めている、ひな形 = 標準請負契約約款を活用することも1つです。

そして、契約書は、14項目の内容を記載するのはもちろん、必ず工事着工前に交わしてください。