社会保険加入によるコスト負担を避けるために従業員を一人親方として独立させる企業が増えつつあります。

ただし、会社の都合で一人親方に移行させても、その実態が雇用関係にあれば、一人親方とは認められずに社会保険に強制加入となってしまいます。

安易に一人親方に移行させると、社会保険加入によるコスト負担がなくなるどころか保険料未納によるペナルティーを受けることにつながってきます。

また、安易に一人親方に移行させるつもりはなくても、各自状況によっては1人親方なのか、労働者なのかその判断に迷うこともあるかと思います。

この記事では、一人親方と労働者を見分ける際の判断基準と一人親方に移行させる際に潜む3つのリスクについて解説していますので、ぜひ参考にしてください。

 

社会保険の加入促進で一人親方が増加する?

2012年以降の社会保険加入促進に伴って一人親方の増加が懸念されてきました。

社会保険に加入すると会社側にコストがかかってしまうので、このコストの負担を避けるために雇用関係を解消し一人親方として独立させることがあるからです。

一人親方 = 事業者ということになりますので、請負契約となり社会保険に加入する必要はありません。

社会保険加入の対象は、請負人 = 事業者ではなく、あくまで雇用契約を結んでいる労働者だからです。

 

事業者と労働者を見分ける判断基準は?

ただし、表面上は請負契約を結んでいても、実態としては会社に雇われているような指揮命令関係にあれば、労働者と見なされ、社会保険に加入しなければなりません。

今後は社会保険の加入促進化によって、国土交通省や国税庁は労働者性を厳格に判断をし、必要な対応が求められます。

ただ、この労働者性があるかの判断は場合によっては簡単なことではありません。

極論を言えば、引き受ける仕事によって労働者とみなされる時もあれば、事業者とみなされる時もありますし、労働者性がどうなのか本人自身も見分けがつかないということも少なくありません。

この労働者性の判断基準はいくつかありますが、国土交通省や国税庁も簡易な判断基準を示しています。これらのいくつかの判断基準を要約すると次のとおりとなります。

 

内容 労働者性 事業者性
仕事の依頼に対して諾否の自由はあるか ×
使用者の指示、指揮、監督を受けて働いているか ×
勤務時間、休日、休憩などの規定があるか ×
自分に代わって他の者が働くことが許されるか ×
報酬は時間給、日給、月給で計算されているか ×
仕事は自分で持ち込んだ機械器具を使用しているか ×
報酬の額は一般従業員に比べてどうか 同程度 高額
仕事の契約は請書、発注書などによって行っているか ×
仕事の契約は自分の商号を用いて行っているか ×
仕事は自分の判断で自由に調整できるか ×
労働契約書、雇入通知書、出勤簿・賃金台帳、労働者名簿などが発行されているか ×

上記の基準をもとにして「労働者性が強いのか」、「事業者性が強いのか」、よく天秤にかけて判断してみてください。

表面上は請負契約を結んでいても実態としては労働者となってしまうのは、極論を言うと例えば18歳親方のような場合です。

いくら事業主としての要件を満たしていると言っても、18歳で請け負った仕事を誰にも指揮命令をされずに自分の技術力と責任で完成させることは現実的には不可能です。

何かしらの指示を受けて仕事を行っているのが現実です。このような場合は、やはり労働者とみなされます。

 

一人親方に移行する際の3つのリスク

労働者と判断されれば雇用契約を結び直せばそれでおしまいというわけではありません。

社会保険の加入を避けるために安易に一人親方として独立させると次の3つの不利益を被る可能性があります。

  • 社会保険料の遡及徴収
  • 源泉徴収の税金負担
  • 労災保険未加入に対する損害賠償の可能性

1つずつ確認していきましょう。

 

社会保険料の遡及徴収

一人親方が労働者に認定されると、社会保険に強制加入となるだけではなく、2年間遡及して保険料を徴収されてしまいます。

この2年間遡及して(さかのぼって)保険料を支払うのは予想以上に死活問題となります。

労働者一人当たりの月収が30~35万円とすると、社会保険料のおよその平均額はひと月あたり10万円前後となります。

通常、社会保険料は、労働者と事業主が半分ずつ負担することになりますが、労働者負担分は給料からの天引きとなるので、事業主がすべて納入することになります。

1人当たり月に10万円と仮定すると年間120万円かかるので、2年間遡って収めるとなると240万円です。

従業員が5人いると仮定すれば、約1000万円の負担となってしまいます。

 

源泉徴収の税金負担

社会保険の加入を逃れるために一人親方に独立させる傾向が強くなっているため、国税庁は厳格に労働者性を判断するようになっています。

今後、一人親方を対象に税務調査を徹底する傾向にあります。

一人親方が労働者と判断されると、本来の雇用主には源泉徴収の義務があります。

この源泉徴収は、過去5年分必要で、雇用主が労働者から源泉徴収をした税金分を徴収することになりますが、本人から徴収できなければ雇用主が負担しなければなりません。

 

労災保険未加入に対する損賠賠償の可能性

一人親方は労働者ではないので、労災保険の適用はありませんが、一定の条件を満たすことで本人の希望により労災保険に特別加入できます。

一人親方が労働者と判断されると、労災保険に特別加入していない、あるいは、低額加入の場合は災害が発生した場合に労働者性を主張して訴えられる可能性があります。

つまり、労災保険の加入手続きと保険料の納付義務は、現場ごとの元請会社が負うことになっているので、雇用主が元請の場合は、被災者や遺族に損害賠償を求められる可能性があるということです。

 

まとめ

いかがでしたか?

この記事では、労働者と事業者を見分ける判断基準を示しましたが、一人親方として独立していても、職人として雇われて働く時もあれば、下請として仕事をする時もあります。

また、発注者から直接仕事を受けることもあったりと状況によっては事業者としての判断が非常に難しくなります。

この記事で解説したように、安易に一人親方に移行させるとそのリスクは図り知れません。

一人親方なのか、労働者なのか見分けがつきにくいという場合は、専門家や役所に相談する、もしくは無理に一人親方にせずに労働者として雇用契約を結ぶべきです。